2013年12月2日

スカラシップ2013上半期レポート 野口彩

演劇の魅力と現状
     野口彩

 演劇とは何か、自分の中で確信に近い言葉はまだ見つけられていない。何のために作品を創るのか、何のために作品を観るのか、今一番関心があると共に頭を悩ませている。

しかし、この数か月様々な観劇と劇場でのインターンシップを経験し、演劇は創る人と観る人の双方が揃わなければ成立しない事を、考えの中心に置くようになった。作品の創作がゴールではない。第三者が作品を観る事で色々な見方や感想が生まれる。それらを共有したり、各々が自分の中で消化する事によって、作品の深みが更に増すのではないかと思う。

今回、王子小劇場のスカラシップで観劇の機会をいただき、演劇作品の幅広さを実感した。自らチケットを購入するとなると、どうしても趣味に合うとわかっているものを選びがちだ。今まで観た事のないテイストの作品の観劇はとても興味深く、表現方法の多様さを自分の目で知る事ができた。この多様さは演出だけでなく、劇中の言葉の選び方にも当てはまるだろう。観劇の際、印象に残る言葉やフレーズに出会う時がある。その言葉は観劇後も心の中に残り、自分の中の引き出しに蓄積されていく。自分の世界が広がるような感覚が好きで、私はもっと色々な作品を観たいと思うのかもしれない。また、同じ劇場の空間を使っていても、作品毎に会場内の空気は異なる。空間を自由に操って新しい世界を創れる事も演劇の魅力の一つだと思う。

しかし、観劇を重ねていく中で、演劇界は独特な狭い世界だと感じるようにもなった。現在の演劇界は観劇を趣味とする固定の演劇ファンによって成り立っていると言っても過言ではないだろう。映画や音楽やスポーツ等様々な娯楽がある中で、演劇は気軽に楽しめる身近なものではないと思う。

私は、演劇が一般的に普及していない原因の一例として、チケットの金額、限られた枠内の公演日時、公演情報の少なさの三つがあると考えている。

作品によって異なるが、二時間程の公演に小劇場は三千円以上、商業演劇は一万円近いチケット料金だ。これは決して安いものではなく、気軽に購入し難いと思う。金額によっては敷居が高いと感じさせるだろう。チケットの完売によって、観劇に興味を持った人が購入を熟慮する時間を提供できない場合もある。

また、殆どの公演が一日のうちに一~二回の上演で、ふと思い立って気軽に足を運びやすいとは言い難い環境だ。チケット発売の時期も公演初日の数か月前からと早く、予め公演日時に合わせて予定を組まなければならない。映画と比べ日時や会場の選択肢、DVD化が少ないため、公演日時に劇場へ足を運べた人しか楽しめないとも言える。これは身近に感じづらい大きな一因だと思う。

さらに、演劇の情報は他の娯楽に比べて少なく、一般的に周知されているとは言えないだろう。公演チラシは私自身観劇時の入手が多く、殆どが演劇ファンの手に渡っているように感じる。演劇の専門誌も手に取る人は演劇ファンが多いだろう。新聞の劇評やインタビューは年齢を問わず不特定多数の人の目に留まると思うが、ネットの普及によって新聞自体の利用者が減少している。近年利用されているSNSは、公演期間中にリアルタイムな情報を発信でき、頻繁な発信によってユーザーの目に入りやすい利点を持つ。しかし、タイムラインはユーザー自らが得たい情報を選んで作っており、公演情報を不特定多数の人に知ってもらうには不十分さが残る。また、現在TVを通した演劇情報は極めて少ない。出演者のインタビューが放送されても、公演に関する情報量は少ない印象だ。TVは不特定多数への発信という面だけでなく、稽古風景や公演のワンシーンの映像を観る事で、視聴者が文字の情報以上にどんな公演かを想像し易い利点があると思う。しかし、金銭的な負担が大きく、容易く利用できる媒体ではないのが現状だ。

 これらの課題は、私自身の観劇経験だけでなく、友人の声も参考にして見えてきたものだ。私は演劇を創る側の経験がないため、外側から見た演劇のイメージに過ぎないかもしれない。しかし、今後多くの人に演劇を広めようと考える上で避けては通れないと思う。具体的な改善策がまだ自分で見出せていないのが歯がゆいが、常に色々な角度から社会にアプローチする事が必要だ。公演だけでなく、教育の側面を持った学芸としてのアプローチも望まれる。

 余談になるが、小劇場の観客は公演に携わっている人の関係者が多数を占めているように思う。開演前の周囲の会話や終演後のロビーでの挨拶の様子は、観劇が趣味で劇場に足を運んでいる者から見ると違和感があり、狭い空間のせいか肩身が狭く感じる時もある。関係者の人に観てもらう事も人との繋がりを大切にする上で重要だが、もっと関係者以外の人に作品を観てもらうにはどうしたらよいかも考える必要があるのではないだろうか。

東京では毎日たくさんの作品が上演されていて、どんな人でもそれぞれの琴線に触れる作品に出会えると感じている。私は演劇の生の面白さや臨場感、空気感をもっと多くの人に体験して欲しい。そして、客観的な第三者の視点も持ちながら、身近で気軽に楽しめる演劇を創っていきたい。自分には何ができるかまだ模索中だが、《創り手と観客が出会い空間を共有する架け橋》になりたいと思う。

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